月の光は優しくてらす。 1

「うわっ!見て見て!」
「うっわぁ・・・よくあれで歩けるよねぇ」
人間は嫌いだ。もちろん自分を含めて。特に、今クスクス笑ってる奴らなんかは他人を笑いものにして生きるしか能のない下等生物だ。相手にする価値もない。
「すっご~い・・・。恥ずかし~」
多分、彼女たちが言っているのは私の服装だろう。上は着物のような振袖の付いている服、下はヒラヒラのフワフワなミニスカート、赤と黒のストライプの長い靴下に膝までのブーツ、おまけに背中には刀。
変だとよく言われるが私は気にしない。何を着ようと私の勝手だ。
「ねぇねぇ彼女~♪俺達と遊ばな~い?」
「絶対楽しいからさ♪」
「幽霊が人間をナンパしてんじゃねぇよ」
「え?何々?」
「だから!幽霊が」
「へぶっ!」
説教してからあの世に送ってやろうと思った矢先、目の前のナンパ幽霊の顔に見事なキックが。
「おめぇ、いい度胸してんじゃねぇか。俺の姫依(きい)に手ぇ出そうだなんべっ!」
今度はキックをした彼が、どこからか現れた同じ顔の女の子に顔面パンチされた。
「誰があんたのってぇ?姫依はあんたのじゃないわよ!」
「いてっ!いてぇって!」
なおもポカポカと殴る。
「ねぇねぇ」
ナンパ幽霊が話しかけてきた。
「一緒に行こうぜ♪」
「あの世まで♪」
はぁ・・・とため息をつく。
「悪いけど遠慮しとく」
パァァと私の両手が光る。
「お、お前!もしかしてっ!」
「くそっ!とんだ女をナンパちまったぜ!」
「バイバイ」
光っている両手をナンパ男達にかざす。
「喝っ!」
「うわぁぁぁ・・・」
死んでまでナンパしたかったのか?あいつらは。
「姫依―――!」
ガバッと先ほどの女の子が抱きついてきた。
()()!てめぇ、抱きついてんじゃねぇ!」
「残念でしたぁ!瑠香は女の子だからいいんですー☆」
「ふざけんな!はーなーれーろー!」
瑠香と私を引き離そうとするが、なかなか引き離せない。
「あ!ちょっと!どさくさに紛れて姫依に触ってんじゃないわよ!変態(さく)!」
「俺は変態じゃねぇ!」
「あのー・・・」
ん?と2人が私を見る。
「うるさい」
「だって!朔が」
「うるさい」
「だっ」
「うるさい」
「・・・・ごめんなさい」
「・・・・悪かった」
この双子は実は悪魔だ。とある出来事から私に懐いた。ちなみに、幽霊と同じで2人のような悪魔や天使も一般人には見えないらしい。
ポンと瑠香の頭に手を置く。
「いいよ」
パァと2人の顔が輝く。
「「姫依大好」」
「許すから離れて、そして2人でそこに正座」
「うぅ・・・」
「笑顔が怖ぇ・・・」
瑠香は涙目で、朔は青ざめて正座をする。
「2人そろって何しに来たのかな?」
「助けに来たに決まってんだろ!」
「そうだよ!姫依があんな奴らに・・・あんな事やこんな事・・・あぁ!恐ろしいっ!」
「お前の頭が恐ろしいっつの」
「何ですって!?
「で!」
また喧嘩しそうなので話を遮る。というか、人の話を聞け。
「なんで2人で喧嘩してたのかな?結局私が自分であの世に送ったし」
「ま、まぁ結果オーライじゃねぇか!」
「そうそう!結果オーライ!」
「結果オーライ・・・ねぇ・・・」
「ひぃ!」
「顔が鬼のようだ・・・」
「姫依――!」
後ろから名前を呼ばれて、出しかけた愛刀の(れっ)(けつ)(とう)をしまう。
「はぁ・・・はぁ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・げほげほっ」
「大丈夫?」
「あははは・・・げほっ。大丈夫・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「そんな遠くから走ってきたの?」
「ぜぇ・・・あそこのケーキ屋さんから・・・げほっ」
ケーキ屋って・・・50mぐらいしか離れてないんだけど・・・。相変わらず体力ないな。
「あ、2人ともこんにちは」
「「こんにちは、羽深(うみ)」」
「何か用事?」
「霊力ちょうだい❤」
「やだ」
「相変わらずバッサリだな」
「ひどいわ・・・ぐすっ・・・」
「ズルしたら罰があたるよ」
「うぅ・・・」
羽深は半人前の天使。元々は人間だった。彼女も双子と同じでとある事件で知り合った。羽深が一人前の天使になるには、人間の霊力(霊感ともいわれる)を吸収して集めなければいけない。世の中には中途半端に霊力を持っていて悪霊たちを呼び寄せてしまう人達がいる。その人達の霊力を吸収するのが一人前の天使になるための試練というわけだ。
というわけで、私の霊力をあげたところで彼女が一人前になれるわけがない。むしろ神様から罰&説教をされることになるだろう。
ちなみに、一人前になっても特に変わりはない。霊力を吸収するのが仕事になり、空が飛べるようになるというだけだ。
「羽深!いくら姫依がひどいからってめげちゃだめ!」
「そうだ!姫依の冷たい目で見られてもめげるな!」
「そうよね・・・!2人ともありがとう!私頑張るわ!」
だから・・・

「だから・・・ルール違反だって言ってるだろうがーー!」