平和に暮らしたいだけなのにっ! 1

「わざわざ英語かよ!普通に泥棒猫でいいんだよ!」

「むっ。ぬいぐるみに注意されたくない!」

「お前のくだらねぇミスで話が進まねぇんだよ!」
「だいたい、あんたは入ってくんな!」
「晴香、落ち着いて。話進まないでしょ」
「はーい!分かりました先輩!」
「何なんだよこの差は・・・・」
「この泥棒猫!」
「それはあんたでしょ!」
「武!武はどっちが本気なの!?」
「俺ハドッチモ好キダヨ」
「そんなの納得いかないわ!」
「俺ハ二人トモ好キナンダ。二人トモ個性ガアッテ、ドッチカヲ選ブナン」
「ストーップ!」
「先輩どうしたんですか?」
「千鶴君さぁ・・・もうちょっと気持ち込めれない?」
「すみません」
「いや、今さらなんだけどね。容姿は良いし、声も通るからぜひとも役者として使いたいんだ、私は」
「ものまねは上手いのに何で演技ができねぇんだよ」
「練習して上手くするしかないです!」
「それにしても、見事なまでの棒読みだね。あ!そうだ!いっそのこと彼氏はロボットだったってことにしよう!」
「ロボットなのに浮気するって、欠陥品ですね」
「あれ、もしかして千鶴君ちょっと落ち込んでる?」
「・・・少し」
萌が彼の頭をなでる。
「かわいいな~!」
「意外と計算だったり・・・まさかな」
「先輩!私もなでなでしてくださーい!」
「何でだよ!」
萌は両手で二人の頭をなでている。
「二人ともかわいい!」
「おい!練習は!」
 
一週間後。萌は部室の事で放課後に加藤先生の元へ行った。
「はい。演劇部の部室はここ」
配分表で指された場所はサッカー部とバスケットボール部の間の部屋。
「あの、文化部と運動部は分かれてるんじゃないんですか?」
「本来はそうなんだけど、ほら、文化部って静かに集中するのが多いでしょ?」
「・・・そうですね」
美術部も書道部も茶道部もアニメ研究部も黒魔術部も静かに集中して活動する。
「でも演劇部は大声を出さなきゃいけない。他の文化部と近くにすると邪魔してしまう可能性があるからね。それに、活動中に部室にいない運動部と一緒の方が気を遣わないで思いっきり練習できるでしょ?」
本当にいい先生だ。部室を確保するだけではなく、演劇部の練習や他の部活の活動の事まで考えて部室を配置してくれた。
「ありがとうございます!」
「お礼なんて言われる立場じゃないよ。そもそも演劇部の部室を確認していなかった俺が悪いんだし」
「そんな事ないです!そもそも顧問がブツブツブツ・・・」
「それと、この書類に部長のサイン貰ってくれるかな。顧問の所は貰っといたから」
「え・・・・はい。分かりました・・・」
一気にテンションダウン。
「あれ、もしかして宮野君のこと苦手?」
「かなり」
「あはは。あんな態度じゃ真面目な女の子は嫌だよね。代わりに俺が貰っといてあげたいんだけど、明日から三日間出張なんだ。部室の移動は明後日までだから明日か明後日にサイン貰って。貰ったら校長に渡してね」
「そうですか・・・分かりました」
「ごめんね、本当に」
「いいえ!十分すぎるくらいしてもらいましたから!」
「そっか。ありがとう」
「お礼を言うのはこっちです!」
「あはは。じゃあ、部活頑張ってね。あ、サイン貰うのも」
「はい。失礼します」
 
「ありがたいですね!」
「やっと一段落」
「本当に信じていいのか?裏で何考えてるか分からねぇぞ」
「失礼なこと言わないでよ!」
「はいはい」
みんなウキウキ気分だ。
「今なら上手く演技できそう!」
「やりましょう!」
それぞれ立ち位置につく。
「俺ハ二人トモ好キナンダ。二人トモ個性ガアッテ、ドッチカヲ選ブナンテデキナイ」
「どっちか選んで!!」
萌が詰め寄る。
「消去法デイイ?」
「消去法!?ってか、アドリブ!?
「消去法でいいわ!選んで!」
「えぇ!?」
「ジャア、コッチ」
萌を指さした。
「えっと、わーい?」
アドリブに乗ることにした。
「そんな!私のどこが不満だっていうの!?」
「ゼンブ」
「ひでぇ男だな!」
「そんな・・・」
膝をつく彼女役、晴香。
「落ち込まないで」
晴香の肩に手を添える萌。
「私の方が魅力的だったっていうだけよ。おほほほほ!」
「お前も最低だな!」
「サァ、結婚式ヲ挙ゲヨウカ」

 

「早すぎだろ!」
「でも、あなたはロボットでしょ?」
「そんな!私のどこが不満だっていうの!?」
晴香のものまね。
「似てるけどよ・・・」 
やっぱり話が進まない演劇部だった。