月の光は優しくてらす。 4

 

というわけで、まんまと引っ掛かった罠の前まで2人で戻ってきた。ちなみに、牢屋は結界があったから彼は出れなかっただけだったから、私が解いてあげた。出てきた彼は「嘘だろ・・・」とか呟いていた。私には朝飯前だけどね。
「左の扉を開けると階段がある。実験室はその階段を上って右に行って、左側の奥から4つ目の部屋だ」
「わざわざ説明してくれてありがとう。どうぞお先に」
「やっぱり俺も実験室まで行くのか・・・」
「妹の為でしょ」
「・・・そうだな。よし!」
意気込んだ割にサクサク歩かない彼の背中を押しながら目的地に着く。
「気を付けろよ。ここはかなり危」
「たのもー」
「おい!」
扉を開けるとなんと素晴らしい実験室!これぞ実験室!
「ちっ」
この屋敷はありきたりばっかりだな。つまらない。たくさんの実験用具、中心に寝台。普通の実験室だ
「来たのはいいけど、何を持っていけばいいか分かんのかよ」
「ん~・・・聞こう」
「誰にだよ。・・・ってまさか!」
「ここの主」
 
部屋がどこか分からないので片っ端から開けて行く。
「違うか・・・」
なかなか見つからない。客室ばかりだ。
「客室多くねぇか?どんだけ泊ま」
話が途切れた事を疑問に思い彼を見てみると、とある部屋の扉を開けたまま固まっている。
「メデューサでもいた?」
などと言いながら私も部屋の中を見てみる。
そこには氷漬けの女の子と、溶けた水を受ける大きく鮮やかな皿。
白いワンピースに金髪の髪。祈るような姿勢で氷漬けにされている様は神々しく、天使という言葉は彼女の事を言うのだと思わせた。
「人間・・・だよな」
翼がないところを見ると人間らしい。
「綺麗だろう」
突然、後ろから声がした。どうやら彼女に見入って気配に気付けなかったようだ。
「私の大切な宝だよ」
これぞ金持ちの成金野郎!というような太った男が金の扇子で自分を扇ぎながら、私達の間を割って部屋へ入る。
「どこのネズミが入ったかと思ったら御神家のお嬢さんじゃないか」
「単刀直入に言う。地下にいる彼女を正常にしたい。どうやったら戻る」
「ふぇふぇふぇふぇふぇ!これは愉快!アレを取りに来たのか」
「あと、彼とその子も」
先ほどまでは双子だけのつもりだった。だが、どう見ても氷漬けにされた彼女も好きでここにいるように見えない。一緒に助け出すというのが当然だろう。
「ふぇふぇふぇふぇふぇ!それは困るな。こやつらは私の大事な商売道具だ」
「なんだと!」
「あんたは大人しくしてなさい!」
「・・・はい」
なんだかペットにしつけをしてる気分になってきた。
「双子は飼いたいという者がいる。妹の方は実験のしすぎで厄介な事になっているがな。私の開発した薬ならどうということはない。こいつはな」
皿の水を掬ってニヤリと笑う。実に汚ない笑みだ。
「この水を飲むとどんな病気も治る。最高の商売道具だ」
「そんな水は存在しない」
「するんだよ、ここに。生まれつき病弱な女の子。彼女には神様から授かった素晴らしい能力があった。それは治癒だ。ただし、自分以外にしか使えんがな」
他人は治せて病弱な自分は治せないなんて皮肉な話だな。
「たくさんの傷や病気を治す日々。温かい両親、温かい周囲の人々。幸せだったろうなぁ。ところがある日、村が襲われ両親を殺された。そんな可哀そうなこいつを私が引き取った」
村を襲ったのはこの男の仕業に違いない。噂を聞いて彼女を手に入れるためにしたんだろう。
「人間のクズだな」
「ふぇふぇふぇふぇふぇ!私のお陰でこいつはより人の役に立てるようになった。おまけに引き取ってやったんだ。感謝はされても罵倒される覚えはないな」
「はっ!よく聞けジジィ!俺にはそいつの悲しむ声が聞こえる!ハッキリとな!」
「五月蠅い小僧だな」
「同感だ」
ものすごく。
「お前は味方じゃねぇのかよ!」
だって本当の事だし。
「さて、そろそろ五月蠅い小僧と邪魔なお嬢さんを掃除するかな」
物騒な事を言ったかと思ったら、部屋の隅にあるレバーを引いた。天井が開き、バサバサバサとけたたましい音と共に巨大なコウモリが突進してきた。
「どんなもん食ってんだよこいつら!でかすぎだろ!」
数は20匹ほどか。
気づけば男がいない。避難したのか。
「くっ!巨大なだけあって力もハンパねぇ!くそっ!お前は大丈夫かって全部避けてんのか!?すげぇな!」
大きさといい力といい、明らかに不利だ。普通ならね。
「おい!結界張れるだろ!?何で張らねぇんだよ!」
「結界張っても解決しないでしょ」
「こいつらを結界の中に入れるってのはどうだ!?
「・・・こんなペットいらない」
「呑気すぎるだろ!生死がかかってんだぞ!?
何を言われようと、こんなペットはいらないので結界は却下。私が列潔刀を使った方が早いし。あ、そういえば薬の在りかを聞いてなかったな。自力で探すしかないか。
「面倒だなぁ」
ブツブツ言いながら背中の烈潔刀を抜く。
「あらよっと」
ザシュッ。
「はっ」
ザシュッ。
「ほっ」
ザシュッ。
「よっ」
ザシュッ。
「すごすぎだろ!」
「的がでかいから切りやすいだけだよ」
こんな調子で全部切った。珀斗の弟は使えないな。
「さてと。この氷は花炎(かえん)で溶けるでしょ」
「術もできんのか。ホントすげぇよ・・・」
術を唱えようとした途端、暗くなった。見上げてみると庶民の家を丸呑みできるほどの大蛇。スルッと尻尾が部屋に入ってきた。巻きつかれた彼が空へ運ばれる。
「離せ!ぐぬぬぬぬぬ!」
尻尾から抜け出そうとするがビクともしない。
「ホント使えない」
大蛇の尻尾を列潔刀で切りつける。ヌルッとしていて刃が滑った。どうやら刀は効かないらしい。
「うをぉぉぉぉ!」
巻きつかれたまま振り回されている。今大蛇を術で攻撃すると彼まで危ない。
「見捨てるか」
「今の聞こえたぞ!」
地獄耳だな。
刀は効かないし術は危険。どうしたものか・・・。などと考えていたら彼が投げ捨てられた。壁にめり込んでしまったが、大丈夫なのだろうか。
ヒュンッ。
「ぐっ!」
今度は私に狙いを定めたらしい。尻尾のあまりの速さに吹っ飛ばされた。
「人質がいないのなら思い切って術が使えるな。花炎!」
花のような形をした巨大な炎が大蛇に襲いかかる。
「・・・脱皮」
蛇だから当然と言えば当然だな。炎もだめか。
「ぐふっ!」
少しでも隙ができるとすかさず尻尾で攻撃してくる。
「どうすれば・・・がはっ!」
火・雷・風・水・氷・土・木どれも効きそうにないな。絶体絶命とはこういう事を言うのか。
なおも攻撃を受け続ける。その時、女の子の氷が光り出した。どうやら女の子自体が光ってるようだ。
ピシッピシッピシッ、パキン!