平和に暮らしたいだけなのにっ! 1

 

「新しい部室に行くぞー!」
「おー!」
「どこ使うんだよ」
「・・・どこだろうね」
「知らないんですか!?」
「部長に聞いたりしてないんですか」
「・・・するわけないでしょ?」
空気が一瞬にして凍った。
「顧問に聞けばいいんじゃねぇか?」
「い、行きましょう先輩!」
「あいつは部活にこないでブツブツブツ・・・」
「何なんだあいつはーー!!」
「先輩落ち着いてー!」
「怒りたくもなりますよね」
事件が起きたのは数十分前。新しい部室棟ができたので全ての部室が移動することになったのだが、この演劇部は自分たちの部室がどこになったかを知らなかった。なので顧問に聞きに行ったのだが――
「部室?・・・あぁ。移動とか言ってたな」
「・・・はい。それでどこになったんですか」
部長のことを思い出したのと、好きじゃない顧問に会わなければならないのとでイライラしている。
「悪ぃ。俺、確保してねーや」
本当に悪いと思っているのだろうか。右手を少しだけ挙げて謝ってきた。
「・・・・はぁ?」
「いや~、忘れてたんだよ~。他の先生方も自分の所で精一杯だったみてぇだな」
他の先生方のせいにするのは間違ってるだろ!と思いつつも、一応教師なので怒りを抑える。
「・・・じゃあ、どうしろってんですか」
〈先輩!口調が悪くなってます!〉
「う~んそうだな~。今から決めんのもめんどいし、もうなくていんじゃね?アハハハ!」
と、言われてしまった。
「何が『アハハハ』だよ!ふざけんな!!」
「相変わらず呑気というか・・・」
「しょうがないよ。なんたって弱小部だし」
「ろくでもねぇ顧問だな」
この大空高等学校の部活動はそこそこ有名なのもある。しかし、演劇部は半帰宅部状態だし、ちゃんと活動しているのは三人だけ。
「っていうかさ!こういうのは部長の仕事でしょ!?顧問と信頼関係を持ちつつ、部をまとめてひっぱっていかなきゃだめでしょ!何でいないの!」
「合コン行くって言ってました!」
「また!?あの女ったらし部長が!」
さっきから怒っているのは三年になったばかりの福山萌。髪の毛がきれいにそろえて切ってあり、いわゆるおかっぱみたいな髪形をしている。妙に似合っているのが不思議だ。
「どうするんですか!?廃部なんて嫌です!」
元気印の二年生、藤堂晴香。一年生の時に萌に一生ついて行くと決めた。外見はお嬢様だが家はアパートだ。アパートなのに専属の運転手(高田)に車で送り迎えしてもらっている。お嬢様なのか庶民なのかはっきりしてほしい限りだ。
「廃部はいきすぎ。そのうち何とかなるよ」
あまり物事に動じない二年生、神矢千鶴。得意なものは運動全般、苦手なものは演技。運動神経抜群なのでしばしば運動部の助っ人として借り出される。
「騒いでも解決しねぇぞ」
「ぬいぐるみは黙ってろ!」
「俺だって好きでぬいぐるみやってんじゃねぇよ!お前らが霊感ねぇせいだろうが!」
ヤンキー口調のぬいぐるみ、ススム。実は幽霊。演劇部が気に入ってここに居るが、学校内ならどこへでも移動できる。演劇部の面々が霊感ゼロなので、しかたなくぬいぐるみに入って会話をしている。
「女ったらし部長がいたら少しはましなのに!」
「口がうまいですもんね!」
「どうせ合コンで鍛えたんでしょうけどね!」
「でも、日誌とかキャプテン会とかそういうのはきっちりしてますよね」
「そうなんだよねぇ・・・。だから部長辞めろってはっきり言えないんだよ・・・」
「お前が彼女になるなら部活に出るって言ってなかったか?」
「冗っ談じゃない!!」
バンッと机をたたく。
「部長人気あるんですよ?イケメンだし、スポーツできるし、頭もいいし、人当たりもいいし。先輩が部長の彼女になったら部活も先輩の将来も安泰ですよ!」
「分かってる?あいつの彼女になるって事は、女を捨てるようなもんなのよ?」
「先輩が部長の彼女になるのは反対です」
「さすが千鶴くん!」
「え~、もったいない。部長に彼女になってくれって言われたの先輩しかいないんですよ?」
「そりゃそうだろ。あいつはいっつも告白される側だからな」
「私は一途な人がいいの!」
仁王立ちで言う。そんな彼女を見てススムが一言。
「そんなんじゃ、一生独り身だな」
「なんだって!?」
ものすごい勢いで睨みつける。
「男に一途を求めるんじゃねぇよ。男っていうもんは、女に愛を与える義務があるんだからよ。なぁ、千鶴」
「違うと思う」
「ばっ!お前、ここは『そうですね、ススム様』とか言っとかねぇと俺の身が危ねぇだろ!」
彼が焦っているうちにハサミを持った黒い影が近づいてくる。
「・・・さーて、ススムくん?どう分解してほしい?」
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
 
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