「先輩!そんなぬいぐるみよりも部室の事です!」
晴香が慌てて止める。
「そんなってなんだ!そんなって!」
「部室がないと満足に練習もできないんですから!」
ススムのことは無視。
「練習ができないのは困るなぁ」
「体育館は運動部が占領してますし」
「私に権力があればなぁ」
「ストライキでもします!?」
「しても誰も困らねぇよ」
「顧問の弱みを握って脅すとか!」
「犯罪じゃねぇか」
「じゃあ、泣き落とし!」
「落されねぇよ」
「ちょっと!さっきから否定ばっかり!」
「はいはい。黙りますよー」
怒る晴香から顔をそらす。
「ぎゃー!首だけ後ろを向くなー!」
「うわ!気持ち悪っ!」
叫ぶ二人を見て千鶴が静かにススムの首を戻す。
「この位でぎゃーぎゃー言うんじゃねぇよ」
首を戻されながらため息をつく。
「ねぇ。さっきの『ススム様』ってなに」
「あ?そりゃあ、俺はお前より上っておい!取れる取れる!」
千鶴はぬいぐるみの頭と胴体を引っ張っている。
「『様』ってなに?ねぇ、『様』ってどういうこと?」
「マジ取れる!分かった!すんません!許して!もう言いません!」
それを聞いてぬいぐるみから手を放す。
「ふぅ。危うくエグイぬいぐるみになるところだったぜ・・・」
「とにかく!何らかの行動は起こさなきゃいけないよね」
「私がこの前見たドラマでは、熱血教師が先生達を説得してましたよ!」
「熱血教師がいないから却下」
「僕がこの前見たアニメでは特殊な能力で命令して従わせていました」
「部室を確保しろ!って、そんな力持ってないって」
「俺がこの前見たドラマじゃ、愛の力で不可能を可能にしたぞ。思わず目から汗が出ちまったぜ!」
彼がしみじみ語る中、嫌そうな目で見る演劇部メンバー。
「な、何だよその目は!」
「学校のテレビ勝手に使ったらダメだよ」
「ってか、あんたが愛とか・・・キモイ」
「キモイってなんだ!お前ら俺をどういう風に見てんだよ!」
「署名とかしますか?」
「っておい!話聞け!」
彼の叫びはむなしく響く。
「署名かー。でも演劇部って他の生徒から変な部活って思われてるし、やってもバカにされそう」
「ですよねー」
「無駄無駄!なぁ、千鶴」
ポンッと千鶴の肩にかわいらしい手を乗せる。乗せられた千鶴はスッと手の届かない位まで移動。
「・・・お前、俺に対しての優しさを少しは持てよ」
それを聞いた千鶴はぬいぐるみの頭にポンと手を置く。
「これからは心掛けるよ」
そう言いつつ、置いた手に力を込める。
「い、痛っ!いや、痛くないけど心が痛い!」
そんな二人のやりとりには気づかず、作戦を練る女子二人。
「他の先生もあてにならないしなぁ」
「他の部活の友達を頼るわけにもいきませんしねぇ。知ってました?演劇部員って変人だって思われてるんですよ!?」
「実際そうだろ。おい!力入れるなって!俺の心はガラスなんだぞ!?」
千鶴が握りすぎてクマのぬいぐるみの顔がブルドッグみたいになっている。
「変人はひどい!変な幽霊は居るけど」
「さらっとひでぇ事を言うんじゃねぇ!今はこんなだが、俺はめちゃくちゃイケメンでいい男なんだぞ!」
「うそくさい」
萌が冷ややかな目でススムを見る。
「うそくさいとか言うんじゃねぇ!」
「はいはい。・・・はぁ。しょうがない、こうなったら部長と話すしかないか」
諦めたように言う。驚いて萌を見る千鶴。やれやれというようにため息をつくススム。キラキラと目を輝かせる晴香。
「部長と話すんですね!」
「あんなに嫌がってたのに」
「緊急事態だし。悔しいけどあいつなら何とかしそうな気がする」
「あの」
明日の事を考えて力なく座った萌に千鶴が話しかける。
「昼休みに行くんですよね」
「うん。放課後はどうせ合コンだろうし」
「僕も行っていいですか」
「うん。いいよ」
「二人っきりは心配だよねー!あの部長だもん!」
「いや、教室で話すんだけど?」
「あの部長は何するか分かりませんよ~?何たって女ったらし部長ですから!」
胸を張って堂々と言う。
「備えあれば憂いなしです」
「・・・お前らどんだけ悪く思ってんだよ。あいつに同情するぜ・・・」
次へ