月の光は優しくてらす。 2

 

私が双子や羽深と出会ったのは半年前。その事件はある人物の訪問から始まった。
 
「頼む!俺の大切な弟と妹を助けてくれ!」
もぐもぐ・・・
「俺みたいな悪魔達じゃ結界がはってあって入れないんだ!」
もぐもぐもぐ・・・
「頼むよ!一生のお願いだ!」
もぐもぐもぐもぐ・・・
「・・・とりあえず、食べるのをやめて話を聞いてくれ・・・」
涙目になってきたので食べるのを中断して話を聞いてあげることにする。
「おやつタイムの途中なんだけど」
「お前がおやつという名の癒しを求めてるのは分かる!分かるが今は俺の頼みを・・・いや、話だけでも聞いてくれ!」
彼は珀斗(はくと)。3ヶ月前に戦いでボロボロになったところを私がたまたま見つけて、霊力をあげて怪我を治したら・・・恩を返したいとやたら押しかけてくるようになった。何度か頼みごとをした(自分で徐霊するのが面倒なので弱い奴は彼に頼んだ)が、それでは恩を返しきれないと言って未だに押しかけてくる。
「実は人間界に来た双子の弟と妹が人間に捕まっちまったんだ」
「へぇ」
「悪魔を捕まえる程の霊力だ。結界も半端じゃない」
「ふーん」
「あいつの家までは俺も行ったんだが・・・だめだった」
「ほー」
「頼れるのはお前しか・・・」
「なるほどー」
「・・・頼みを聞く気ゼロだな」
「私には無理」
「無理じゃないはずだ!徐霊師の一族である御神(みかみ)家で1番の霊力を持ち、俺のあのひどい怪我だって治してくれた!お前ならできる!」
キラキラした目で息を荒くしながら褒め称えてきた。実力とかそういう問題じゃない。ただ単に、私のやる気がないだけ。
勘違いを指摘するべきか迷っていると、珀斗が辛そうに話し始めた。
「・・・あいつらは双子という悪魔の間では毛嫌いされる形で産まれてきた。でも、成長するにつれて、2人の振る舞いに周りは嫌悪どころか尊敬すら覚え始めた。どんなに理不尽な嫌われ方をしても、相手を思いやる気持ちを忘れないんだ。俺は一生あいつらを守ってみせるって誓ったんだ。たとえ世界中の悪魔や天使や人間・・・あらゆる奴が敵になったって俺だけは味方だって・・・・守ってやるって・・・誓ったんだ・・・」
「でも守れなかった」
「それを言うなーー!」
自分が守れなかったから私に助け出せなんて。そんな都合のいい頼み引き受けるわけがない。
「私はやらない」
「・・・そうか・・・こんな事はしたくなかったが・・・」
すっと立ち上がったかと思うと、私の大切な大切なくま吉を掴んだ!
「このテディベアがどうなってもいいのか?」
「くま吉ーー!やめて!くま吉を離してーー!」
右手を伸ばして必死で叫ぶ。
「頼みを聞くなら離そう」
「聞く!聞くから離してーー!」
くま吉が解放され、目にもとまらぬ速さで抱きかかえる。
「良かった・・・」
「俺の弟と妹は人形以下なのか・・・」
こうして、事件の幕は開けた。

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