月の光は優しくてらす。 3

 

「立派なお屋敷ですこと」
「お前の家の方がでかいだろ」
珀斗に連れてこられたのはそれはそれは大きな屋敷。と言っても私の家に比べれば半分くらいだけど。
「さっさと終わらせよー」
珀斗の腕を掴んで屋敷の門をくぐる。
「いっ、いてててててて!バカ!俺は結界で入れないって言っただろ!」
振り返ると、そこに透明の壁(電流付き)があるかのように門をくぐる事の出来ない珀斗。
ぐいっ。
「いでででで!」
少し引っ張ると彼の顔が潰れる。
「ぶっ」
思わず噴き出してしまった。
「笑うな!俺は必死なんだよ!」
あまりすると可哀そうなので腕を離す。面白かったのに・・・残念だ。
「いいか?2人の気配は地下からする。きっと地下に・・・っておい!話を聞け!」
「聞いてる聞いてる」
「じゃあ歩くのをやめ」
キー、バタン。
屋敷の中に入り、ため息をつく。顔芸は面白かったのに話は全然面白くない。
気を取り直して周りを見る。天井には大きなシャンデリア。両側には緩やかに曲がった長い階段。ありきたりな屋敷だ。
とりあえず階段を上ってみる。これはまた・・・ありきたりだな。肖像画とは。
「ダサい」
ありきたりすぎてつまらないので文句を言っておく。一言ぐらい良いだろう。
さらに左の階段を上って見ると右側に扉が2つ。その2つの扉の間に不思議な紐が垂れている。
「・・・」
見つめていたら紐が「引っ張ってくれ!」と言っているように見えてきた。
「し、仕方ないなぁ」
と、変なトキメキと共に紐を引っ張る。
ガコン。
「やっぱりそうか」
足元に滑り台が突如現れ、何の抵抗もなく滑っていく。
 
スタッ。
審査員がいれば間違いなく10点をつける見事な着地。さすが私。
「誰だ!?
着地の見事さに惚れ惚れしていると、どこからか男の子の声が邪魔をしてきた。
「・・・あぁ、そうだった」
忘れていた。そもそもこの屋敷には珀斗の脅迫で来ていたんだった。
「おい!聞いてんのかよ!」
探そうにも真っ暗だ。火の玉でも呼ぶか。
「返事し・・・ってうわぁぁぁ!」
火の玉のお陰でぼやっとだが明るくなった。改めて声のした方を見ると、鉄の牢屋の中で「来るなぁぁぁ!」と言いながら手を振る、私より1つか2つ下ぐらいの男の子がいた。
「ひっ!来るな!」
反応が面白いので、わざと火の玉を近づけてみる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
・・・兄弟そろっていい顔芸をする。ともあれ、このままじゃ話ができないので遊ぶのをやめる。
「私は君達のお兄さんに頼まれて来た」
「兄貴に・・・?」
「結界があって助けに行けないから代わりに行ってくれって」
「そ、そうか。前に兄貴に聞いた人間か。ありが」
「お礼はこの屋敷を出てからね」
そういえば妹もいると言っていたような言ってないような言ったような・・・言った?
ガンガンガンガン!
鉄を叩くような音がする。太鼓の練習でもしてるのか?
「っ駄目だ!行くな!」
音の方へと足を進めた途端、何やら必死な声で止められた。不思議そうな顔で振り返る。
「そっちにいるのは妹だ」
「2人を助けろって言われてる」
「駄目なんだ。瑠香は・・・妹はここの奴に霊力吸い取られて、おまけに実験道具として使われて・・・暴走しちまってるんだ」
捕まっているだけかと思ったら、そんな事までされてたのか。私には関係ないけど。
音の方へ歩き出すと、また止められた。
「駄目だって言ってるだろ!」
五月蠅いな・・・。
「今のあいつはホントに危ねぇんだよ!」
「五月蠅いな!2人助けろって言われてんの!破ったらくま吉がひどい目にあうの!あんたは黙って座っときなさい!」
ビシッと床を指さして怒鳴ると「・・・はい」と大人しく座った。
 
ガンガンガンガンガン!
音が近づいてきた。どうやらこの辺から聞こえるようだ。周りがコンクリートで囲まれてるから、やたら音が響く。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
前方から獣のような声が聞こえる。
「がぁぁぁ!ぐるるるる・・・」
声の主は獣ではなく先ほど言っていた妹らしき悪魔だった。翼も体も傷だらけだ。
「可愛い・・・とは言えないな」
完全に理性を失っているようだ。暴走と言っていたんだからそれはそうか。
「例えるなら・・・狂犬か」
「うがぁぁぁぁ!」
例えが気に入らなかったらしい。
さて、問題はどうやって暴走を止めるかだ。霊力を送ろうかと思ったが、今の状態じゃあ力を増してより凶暴になるだけだ。それに、暴走は霊力を吸われた事が原因ではない。実験道具とか言っていたが、それが暴走の原因だろう。
となると、その実験が何なのかだ。
 
再び彼の元へ来た。言われた通り床に座ったままだ。・・・誰も正座しろとまでは言ってないのだが。
「あのさ」
「はい!」
「実験した所に行きたいから道教えてくれない?」
「はい!・・・え!?
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてるな。
「実験って・・・いやいやいやいや!危ないだろ!危なすぎる!」
「あのままじゃあ、妹連れて行けないし」
「そりゃ助けたいけど・・・だからって!」
「くま吉がかかってんの!」
「・・・はい」
 
 
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