月の光は優しくてらす。 8

 

「なにっ!?
「こんなことしちゃダメなんだよー?」
弾はヒロシくんが溶かしていた。
「くそっ!それなら!」
今度は私に銃口を向けてきた。終わったな、こいつの人生。
「姫依を傷つけるやつは許さないーー!」
ヒロシくんの色が青から白に変わり、成金野郎を包み込んだ。 
「ど、どうなったんだ?」
ヒロシくんの活躍で彼は助かった。傍らには倒れた成金野郎。
「魂をちょっとだけ食べたんだよー。まずかったー」
「えぇぇぇ!?魂を食ったのか!?
「ちょっとだけだよー」
「生きてるの?」
「生きてるよー」
「少しだけ魂を失くした人間は記憶を失う。次に目を覚ました時は別人だろうね」
「そういえばヒロシくん、どこにいたの?」
「ずっと彼の中にいたけど」
「え!?
「鬼ごっこしてたのにこいつが来たからー、ずっと隠れてたんだよー」
ガタン!と音がしたので振り返ると彼がひっくり返っていた。
「あら、気絶してるわ」
「情けない」
「うっ・・・」
そうこうしている内に成金野郎が気がついたようだ。
「わ、私は・・・?」
混乱している成金野郎に天使が微笑みながら答えた。
「あなたは成金野郎よ」
「成金野郎?・・・そうか、私は成金野郎という名前なのか」
「ふふふ。驚くほど素直に信じてしまったわ」
「意外と腹黒いな」
さすがにそれを名前にしてしまうのは気の毒だろう。
「あんたの名前は『#$%&‘』」
「え?」
「おかしいな・・・。『#$%&‘』。あれ?」
なぜかこいつの名前が言えない。私達では敵わない大きな力が働いているようだ。
「仕方ないな。屋敷調べたり戸籍調べたりして自分で何とかして」
「は、はぁ・・・。分かったよ」
「この成金野郎なら薬の場所を教えてくれるかもしれないわね」
「あぁ、それ無理。記憶なくなってるから」
「その代わりー僕が知ってるよー」
ぐるぐると天使の周りを実に楽しそうに回っている。
「えっとー薬はあの机の引き出しの中だよー」
ヒロシくんの言う通りに机の引き出しに向かう。
「鍵穴か」
当然と言えば当然だな。鍵はどこに
ガコン
「開いてしまったわ」
・・・隠し部屋といい引き出しといい、本当にこの成金野郎はどうしたいんだ。意味が分からない。
「薬は・・・これか?」
「『悪魔の妹を治す薬』と書いてあるわね」
「確実にこれだな」
実に分かりやすい。何かもう、あっさり見つかりすぎて逆に不安になってきた。
「っ・・・いててて。俺、何で床で寝てんだ?」
「君、大丈夫かい?」
「てめぇ!よくも俺を・・・お前本当に成金野郎か?」
「ヒロシくんお願い」
「この人ー記憶がなくなって別人みたいになったんだよー」
「な、なるほどなー!頭でも打ったのか?そういえば俺は何で床で寝てたんだ?頭に銃向けられて・・・向けられ・・・ん?」
ショックすぎて記憶を消したのか。
「薬は手に入ったし、地下に行こう。あんたは自分に関する事でも調べたら?」
「そうだな。何をしに行くのか知らんが、気をつけてな」
「人間って変われば変わるもんなんだなぁ」
まじまじと観察しているところを邪魔するようで悪いが、彼にも付いて来てもらわなければいけない。仕方がないから引っ張って行くか。
「ぐえっ!づがむなら腕をづがめ!」
首はお気に召さなかったようだ。
 
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