メロディー♪ ~春風学園の遠足~ 5

 

「疲れてないか?」
「だから、問題、ない」
嵐が落とし穴に落ちている頃。瑛と京の二人はほとんど話さず歩いていた。瑛の頭には先ほどはなかった花の冠が乗っていた。
「しかし、京は、器用、だな」
「その冠の事か?それ位作れるだろ」
「作れない、から・・・」
彼女は不器用なのだ。裁縫も料理もできない。家庭科の授業でケーキを作った時、なぜかスポンジが膨らみ過ぎ、オーブンから出てきてしまった。
反対に京は器用だ。裁縫・料理共に得意だ。裁縫は職人がやったのかと思うほど美しく、料理は一流コックが調理したのかと思うほど美味だ。家庭科の授業でエプロンを作ったのだが、その時普通では面白くないと思った彼はエプロンに刺繍を加えた。
すると学園で評判になり、おまけに国から表彰されてしまった。美術館に飾らないかと依頼が来たが、彼は断り、今は瑛の物となっている。つまり、瑛は国宝を着ている事と同じなのだ。
「ひ、人には向き不向きがある。俺はたまたま得意だっただけだ」
「む・・・開けて、きたぞ」
広い場所に出た。交差点になっているみたいだ。三つの道が交わっている。左側を見てみると塊と嵐が歩いてくるのが見えた。
「瑛と京だー」
「やっぱり、繋がって、たな」
「瑛はすごいな」
「こら!また調子に乗りそうな事を言う!」
結局、四人とも同じところに行きついてしまった。
「別にいいだろ」「あんたが甘やかすから」と京と嵐が言い争っている中、塊が道の上に何かを書いている。
「塊、何を、している」
「目印ー。帰る時に道が分からなかったら大変でしょー?」
そう言いながらせっせと矢印を書いている。
「塊」
「なにー?」
「こう、言っては、なんだが」
「んー?」
「風が、吹いたり、動物、通ったりで、消える」
「あー。そうだよねー」
「瑛、もっと奥に行ってみよう」
瑛が塊に忠告している間に言い争いは終わったようだ。
「目印、欲しい」
「お菓子でも置いて行ったら~?たっくさん持って来たんでしょ?京に持たせるくらい」
彼女は瑛が持ちきれないほどお菓子を持ってきた事が気に入らなかったらしい。元々真面目な彼女だ。五百円という決まりを守らなかった事にいら立っているのだろう。
「むー・・・」
「お前、今なんつった?もう一回言ってみろよ!」
「言い方が悪かったのは謝る!でも、持ってきすぎた事で京にも迷惑かかってるのに気にしてない感じだし・・・」
気まずい雰囲気の中、のんびりとした声が響いた。
「でもー、毎年の事だしー、今更って感じだよねー」
「うん・・・。ちょっと言い過ぎた・・・。ごめんね、瑛」
「なんでやねん」
聞いてて悲しくなるようなほど棒読みで瑛が彼女につっこんだ。言っておくが、今まで瑛がつっこんだ事はない。なので、当然三人は驚くわけで。
「瑛が・・・つっこんだ・・・のか?」
「え・・・は?」
「わぁおー。初体験ー」
当人の瑛はなぜ三人が驚いているのかいまいち分かってない様だ。
「どこで・・・そんな言葉覚えたの?」
「塊に、本、借りた」
「そんなの貸したの?」
「うんー。だってー、一番お勧めだったからー」
「確か、『つっこみの極意』、だった」
「あぁ、あれか」
「京?あれかって・・・」
京は瑛を笑顔で見ながら答える。
「タンスの中に大切に入ってた。な」
「ん」
タンスの中と聞いて塊と嵐の顔が青ざめる。
「タンスって・・・。京、あんたが瑛を溺愛してる事は知ってたけど、そんなストーカーまがい・・・いや、もうストーカーだよ!」
「むしろ変態ー?」
「待って、違う、勘違い」
どこが?と言うような顔で二人が瑛を見る。
「タンス、京の」
彼女が言うには、人から借りた大切な物を自分の部屋に置いておくのが不安だったので、京のタンスの中に隠していたそうだ。隠したといっても京のタンスなので、京にはすぐバレたが。
それを見つけた京は彼女がそうしたいならと置いておいたらしい。ちなみに、彼女が『つっこみの極意』を入れた場所の服は取り出さないようにしていた。服を取り出した時に彼女の大切な物に傷でも付けたりしたら、生きていけないそうだ。
「っていうか、塊ってつっこみじゃないじゃん」
「つっこみってー、嵐しかいないから手伝おうと思ったのー」
「手伝う手伝わないの前に向いてないから。そもそも担当を分けてるわけじゃないから」
「あー、二人があんなに小さくー」
どうやら二人が会話している間に瑛と京は先に進んでいたようだ。ちょっぴり嵐は悲しかった。
          *
「かなり進んだんだがな」
だいぶ森の奥に行ったはずなのだが、行けども行けども道が続くばかりだ。四人が帰ろうかと思いだした時、そばの茂みが音を立てて揺れた。
「な、何?」
「なんかいるー」
「俺の後ろにいろよ、瑛」
「ん」
その時、四人は見てしまった。真っ白な服を着た髪の長い女性がしゃがんでいる姿を。
「え?え?」
「なんだよ、あれじゃ・・・まるで・・・」
「まるでー・・・」
「幽霊、だな」
こっちに気付いたのか幽霊らしき女性はゆっくりと立ち上がり振り返った。最初に動いたのは京だ。
「逃げるぞ!」
瑛の手をしっかりと握った彼は、一目散に逃げた。他の二人を置いて。
「んー」
「塊!何してんの!逃げるよ!」
しかし彼は逃げる事に不満のようだ。そんな様子に気付かない嵐は彼を引きずりながら逃げた。 
 
 
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