メロディー♪ ~春風学園の影の噂~ 5

 

実験の結果、どうやら取れるのは【魂】ではなく【心】だった。奪う、といった表現の方が適当か。
翌日の昼休み。京は屋上にいた。一人でたそがれていると、入口のドアが開く音がした。
「はぁ・・・はぁ・・・。もう、大丈夫か・・・。ふぅ・・・。うぉ!本田!」
入ってきたのは、おなじみの男子生徒だった。
「・・・・・・・誰だ?」
「いつもお前らに平凡な日常を壊されてる、どこにでもいそうな男子生徒だよ!」
説明をしたが、京は「は?」と言うだけで、さっぱり思い出せないようだ。
「えっと~、この前の、何か知らないけど縄に縛られた本田を俺が見張らされてただろ?あと・・・、あれ!あの、遠足の時!行方不明になったお前らを捜しただろ?」
「・・・・・・あぁ。居たな、そういえば」
「喜んでいいのか悲しんでいいのか分からない反応だなぁ」
京のお気に入りの場所である屋上に突然ずかずかと入ってきた男子生徒は「う~ん・・・」と言いながら腕組みをしてうろうろしている。
「って、俺追いかけられてるんだった!本田・・・本田・・・。そうだ!頼むよ本田!助けてくれ!」
「断る」
「理由ぐらい聞いてくれよ・・・シクシク」
京に背を向けて「どうせ俺は脇キャラだよ」といいながらメソメソしだした。
「・・・・何だよ」
「ありがとう、本田!実は、吉田に追われてるんだ。正確には、フードを被った奴に追いかけられてる吉田に追いかけられてるんだけどな」
「なんでお前が?」
「俺が知りてーよ!とにかく、追いかけてくんだよ吉田が。さすがに無表情は怖いって!」
「俺にはどうにもできないな」
彼の言葉に男子生徒がポカンと口を開けている。
「本田・・・。何かあったのか?お前が俺の話をまともに聞いて、しかも吉田のとこに行かないなんて」
「いろいろあるんだよ」
男子生徒は彼の隣りへ歩いて行き、彼の肩に手を――怖くて置けなかったが、浮かせた状態で聞いた。
「悩みがあるなら言ってみろよ。俺と本田の仲じゃないか」
「どんな仲だよ」
「い、今のは冗談。俺の悩みを聞いてもらったからな。本田の悩みも聞くよ。まぁ、本田の事だから吉田に関する事だろうとは思うけど。例えば・・・吉田に対する恋の悩み、とか」
「な、なななな何言ってんだ!殴るぞ!」
「わーー!待てって!まさか図星とは思わなかったんだよ!」
殴ろうとする京の拳をなんとか押さえて弁解する男子生徒。様子がおかしいからと調子に乗って馴れ馴れしくしたのだろうが、調子に乗りすぎた。
「恋愛関係なら俺に任せろ!こう見えても俺は【春風学園に舞い降りた恋のキューピッド】って言われてんだぞ!」
「聞いた事ないな」
「ば、ばれたか」
「てめぇ!」
「わーー!悪かった!でも、協力するから!【春風学園に舞い降りた恋のキューピッド】とまでは言われてないが、そこそこカップル成立させてんだよ!」
「・・・」
「な?全力を尽くすから!」
京が拳を下ろした。
「で、吉田と何かあったのか?」
京は昨日の実験の事を話した。実験をしたせいでマイケルが瑛の事を好きになり、異常なほど瑛にアタックするマイケルを親友なので無理やり引き離す事もできずに、ただ見ているしかできないという事を。
「なるほどなぁ。っていうか、あの噂が本当はそんな事になるって事だったとはなぁ。あ!じゃさ、本田が吉田を撮れば良いんじゃないか?」

撮られた人が撮った人を好きになるという不思議な現象を利用しようという考えだ。「とりあえず、やってみたら?」という事で、今夜決行することにした。

 

 

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